消えていく星の流線を

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デフォで重め

『おそ松さん』の源流 〜和のメロディーと『銀魂』のデジャヴ

 
ここ数年間のアニメ界で、間違いなく覇権を握っているうちの一つが『おそ松さん』だ。
2015年秋〜2016年冬クールに第1期が放送され、現在第2期が放送中。
20代女性を中心に大ヒットとなった。
 
正直、このアニメはくっだらない。
終始、ずーっと馬鹿でくっだらない。
これはね、褒め言葉です。
わたしもそのユルさにハマり、毎週放送を楽しみにしている所存だ。
 
このアニメが大当たりした理由としては、色々なところでたくさん指摘されている。
気負わずに見られるバラエティー番組に近い構成・個性を立たせた6つ子のアイドル性・親しみやすいキャラデザ………などなど。
(これを書くにあたり、さっき「おそ松さん ヒット」でググった。めちゃくちゃ即席の知識ですみません……)
 
前置きはこのくらいにして。
今回はそんな『おそ松さん』ヒットのヒミツについて、私見を書いていこうと思う。
 
 
 
 

おそ松さん』と『銀魂』のノスタルジー

 
わたしが最もピンと来た、『おそ松さん』ヒットの要因。
 
それは藤田陽一監督の存在だ。
 
おそ松さん』1期、2期と監督を務めている藤田監督。
代表作はなんと言ってもアニメ『銀魂』シリーズである。
 
おそ松さん』の中でも『銀魂』の要素は存分に生かされている。
まあ、主に下ネタなんだけど(笑)
 
大事なところにモザイクかかる感じとか、リバースされたものにモザイクかかる感じとか、セリフの端々にモザイク(ピー音)かかる感じとか。
公式への最大のリスペクトを含んだ パロディの感じとかwww
 
テレビに向かって「いやこれ銀魂!!」って叫んだ人はわたしだけではないはず。
 
 
 そもそも『おそ松さん』のメインファン層である20代(腐)女子は、尊き青春時代に『銀魂を見てすくすく成長した世代である。
 
TVアニメ『銀魂』は2006年放送開始。
22歳のわたしは当時小学5年生、25歳の女性であれば中学2年生だった。
 
今の20代オタク女子は、多感な時期に毎週『銀魂』を見て、テレビの前でゲラゲラ笑っていた世代なのである。
 
おそ松さん』は、そんな銀魂育ち世代のわたしたちに一種のノスタルジーを感じさせた。
「ああ!この下ネタの感じ!銀魂!懐かしい!」という具合に。
 
20代女子が、10年前の青春時代のように、アニメを見てなーんにも考えずに爆笑することができる……
それが『おそ松さん』ヒットの大きな要因だった。
 
 
 

おそ松さん』が纏う和のカラク

 
音楽の面でも『おそ松さん』と『銀魂』は共通点がある。
この2作品の主題歌について探っていこう。
 
 
 
おそ松さんのOP曲はどれも素晴らしいと思う。
 
OPテーマは合わせて3曲、いずれもA応Pが歌っている。
 
 
この3曲を聞くと、あることに気づく。
 
どの曲もどことなく和風なのだ。
 
その秘密はこの3曲の音階にある。
 
 

和を感じさせる音階

 
この音階の秘密について、素人ながら解説していこうと思う。
手元にピアノがある人は、弾きながら読んでいただくと分かりやすいかもしれない。
 
 
 
音階はふつう「ドレミファソラシ」の7音が使われる。
 
ここから4音目の「ファ」と7音目の「シ」の音を抜いた「ドレミソラ」という音階は「ヨナ抜き音階」(4・7を抜くことから)と呼ばれる。
 

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音符の横の変な余白は、譜面作成アプリの関係上消せないのですみません、気にしないでください…あと4/4っていうのも…
 
 
また、2音目と6音目を抜いた「ニロ抜き音階」というものも存在する。
2音目の「レ」と6音目の「ラ」を抜いた「ドミファソシ」、これは「琉球音階」とも言われ、沖縄風を感じさせる。
 
ニロ抜き音階には短音階もあり、ポピュラーソングではこちらがよく使われる。
長音階(明るいイメージ)を半音3コ分下げた音から始めると短音階(暗いイメージ)になる。
「ドレミファソラシ」をこの音程分下げて短音階「ラシドレミファソ」にしてみる。
そこから2音目と6音目を抜いた「ラドレミソ」、これが「ニロ抜き短音階」と呼ばれている。
 

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ヨナ抜き音階の「ドレミソラ」
ニロ抜き短音階の「ラドレミソ」
 
この「ヨナ抜き」「ニロ抜き」のように、2音を抜いた5音で構成される音階はペンタトニックと呼ばれ、「日本風」を感じさせると言われる。
 
ヨナ抜き音階は『七つの子』『夕焼けこやけ』『うみ』など童謡や民謡でよく使われ、挙げればキリがない。
音階の種類はまた違ってくるが、『君が代』や『さくらさくら』などもペンタトニック。
 
 

おそ松さん』主題歌のペンタトニック

 
実は『おそ松さん』のOPテーマ3曲は、全てこのペンタトニックの音階を使っている。
実際にこの3曲の譜面を書いてみたので、貼っていこう。
 
なお、♯や♭が付いた原曲のキーだと説明がしづらいので、すべてこれらの記号が付かないキーに転調してある。
 
 

 

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ララミミレレミミ、ソミミレーミーレ、ララミミレード(シ)、ド(シ)ド(シ)ドレミ
ララミミレレミミ、ソミミレーミーレ、ソミミレソミミレ、ミレミソラー
 
 

 

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ミーレドレ、ラードドレソーミー、ラーソミドレ、レドレドーミー
ミーレドレ、ラードドレソーミー、ラーソミドレ、レミソーミラー
 
 

 

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ソーラ、ソラドレミレード(シ)ラ、ソーラードー(シー)ラ、ソラミレミ
レミソラ、ソラドレミレード(シ)ラ、ソラーミーレドレドー
 
 
 
『はなまるぴっぴ』と『全力バタンキュー』は「ニロ抜き短音階
『君氏』は「ヨナ抜き音階」である。
 
まあ、純粋に「ドレミソラ」「ラドレミソ」しか使ってないわけではなく、音の流れの関係上ちょこちょこ「シ」が入ってくるんだけど、そこは()で括りました。
 
 
 
アニメ第1作『おそ松くん』は、1966年〜1967年にかけて放送された。 
 
おそ松さん』の主題歌は、ペンタトニックの音階を使って元祖『おそ松くん』の「昭和の日本風情」のようなものを踏襲した。
そしてその日本風情を、今どきのアニソンとして最大限にブラッシュアップさせたのだ。
 
 
 

おそ松さん』と『銀魂』に通底する音楽

 
『はなまるぴっぴ』『全力バタンキューと同じ、ニロ抜き短音階をとても上手く使ったバンドがいる。
 
DOESっていうんですけど。
ドーズって読みます。
エスじゃないです。
 
DOESはアニメ『銀魂』の主題歌を4曲担当した。
 
EDテーマ『修羅』
OPテーマ『曇天』
劇場版主題歌『バクチ・ダンサー』
OPテーマ『KNOW KNOW KNOW』
 
実はこの4曲は、すべてニロ抜き短音階を使った曲なのだ。
 
 
『修羅』

 

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ラードーレーミ、ソードーレーミ、ソードーレ、ドミレドラー
ラードーレーミ、ソードーレードー(シー)、ラ(シ)ドレミレドラソラードラ
 
 
『曇天』

 

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ソーラーラ、ミソラ、ラソラソミソ(シ)、ララソソミソラ、ラソラ(シ)ド(シ)ラソ
ラーラ、ミソラ、ラソラソミソレドラ、ドーミーレードーソラー
 
 
『バクチ・ダンサー』

 

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ラードーレーレドレミレドラ、ラードーレーレドレミレドラ、
ラードーレーレドレミレドラ、ドー(シシー)ラ、ドー(シシー)ラ、ソラードーラ
 
 
『KNOW KNOW KNOW』

 

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ミソ、ドードー(シ)ーラ、ラーソミソ、ドードー(シ)ーラ、ソーラーソミ
ドードー(シ)ーラ、ラーソミソ、ラーソーミーソ、ラーラソーミーソーラ
 
 
このように、4曲とも「ラ(シ)ドレミソ」しか使われていないニロ抜き短音階である。
 
 
DOESはニロ抜き短音階とロックを融合させ、この独特の「和っぽい」世界観を作り出した。
そして、侍が主人公であり、幕末を舞台とする『銀魂』の世界観にその楽曲はぴったりハマった。
 
そう。
ここで再び『おそ松さん』と『銀魂』が繋がった。
 
 
藤田監督はヨナ抜き・ニロ抜き音階を使った主題歌を起用することで、
 
・『銀魂』では幕末の世界観を出し、
・『おそ松さん』では元祖『おそ松くん』に通じる昭和の日本っぽさを漂わせ、
 
アニメに絶妙な「和」のエッセンスを加えた。
 
 
おそ松さん』の主題歌3曲がまとう和の雰囲気は、『おそ松くん』……引いては赤塚不二夫先生へのリスペクトだったのではないだろうか。
 
そしてこのペンタトニックの音階は、まんまと私たち『銀魂』育ち世代の性癖に刺さった、というわけである。
 
 
 
DOESについてはこちらのブログを参考にさせていただきました。
 
それにしてもDOESはいつ聴いてもかっこいい。
 ピックを持つ手が疼くぜ。ギターもベースも弾けないけど。