ミスチルサブスク解禁にあたる『SUPERMARKET FANTASY』再考
去る2018年5月10日。
Mr.Childrenが、今までリリースした全シングル・アルバムを各音楽ダウンロードサービス、およびサブスクリプションサービスで解禁した。
Mr.Childrenの音楽が大量消費される時代が、本格的に到来した。
思えば現在の音楽市場はダウンロードが主力になりつつある。
各サブスクリプションサービス、いわゆる「定額聴き放題サービス」も急速に浸透してきている。
米津玄師の『Lemon』がダウンロード史上初のミリオンセールスを達成したことは、記憶に新しい(集計期間:〜2018年5月6日)。
【オリコン】米津玄師「Lemon」が配信ランキング初のミリオン達成「感無量です」 | ORICON NEWS
音楽の消費は、「1000円で買ったCDを大事に」聴く時代から、
「250円で買った曲を気軽に」また、「月額1000円で大量に」消費する時代になった。
Mr.Childrenは、2008年12月に『SUPERMARKET FANTASY』というアルバムを出した。
最近のイメージだったけどもう10年も前なんですね!びっくり。
このアルバムはすごく良い。
何が良いかというと、暗い曲がないのだ。
1.終末のコンフィデンスソング
2.HANABI
3.エソラ
4.声
5.少年
6.旅立ちの唄
7.口がすべって
8.水上バス
9.東京
10.ロックンロール
11.羊、吠える
12.風と星とメビウスの輪
13.GIFT
14.花の匂い
これらの収録楽曲はほとんどメジャーキー(長調)である。
マイナーキー(短調)は先行シングル曲である『HANABI』のみで、それ以外の曲はメジャー。全部メジャー。
メジャーマイナーだけで、明るい暗いといった曲の雰囲気を測るのはナンセンスかもしれないが、このアルバムのメジャーキー率の高さはMr.Childrenのアルバムの中でも異質である。
そしてアルバム全体が、ふんわりしててキラキラしてる。
ただただ純粋に、希望を感じられて、聴いた後に元気になれるアルバムだと思う。
このアルバムが描き出すもの、それは
「音楽が大量消費されることの希望」である。
Mr.Childrenは、このアルバムと同時期、2008年11月に、初の配信限定シングル『花の匂い』をリリースする。
『花の匂い』以降のミスチルのシングルは配信が中心になっていく。
昨年リリースされた25周年記念のベストアルバムも、配信限定だった。
『SUPERMARKET FANTASY』リリース時期を境に、Mr.Childrenは、自身の音楽が配信(=大量消費)されることを受け入れていった。
このアルバムは「音楽の消費のされ方」それ自体をテーマにしていた。
このアルバムの中では、音楽は
「フルボリュームのL-R」で流れてたり(エソラ)
「ヘッドフォンのボリュームを上げ」たり(ロックンロール)
「この街に溢れてる スピーカーから流れて」たり(声)
「僕が歌って」たりする。(水上バス)
実に様々な形で、音楽は日々、私たちの周りで消費されている。
桜井さんはこのアルバムの大きなテーマについて
「スーパーマーケットというのは消費文化の象徴」*1
と語った。
スーパーマーケットという消費文化のメタファーを通して、Mr.Childrenが「音楽の大量消費」に対する意思表示をしたのが『SUPERMARKET FANTASY』というアルバムだった。
桜井さんはアルバムリリース時、
「売れるってことは、思ったより素敵な形じゃなかった」*2
と発言していた。
スパファン以前、Mr.Childrenの音楽が大量消費されることに、桜井さんは良い印象を持っていなかった。
その理由は、「簡単に手に入るものは簡単に手放される」という考えから。*3
しかし、スパファン以降は
「Mr.Childrenの音楽は聴く人が元気に健やかに過ごせるためのちょっとした刺身のつまというか、そうなれるといいなと思っています」*4
「聴いてくれる人が生活の中で、お茶請けにでもしてくれればいい」
「大量に消費されるからこそ起きる奇跡のようなものを信じて音楽をやっている」*5
などと語っている。
つまり、おつまみ感覚で気軽にMr.Childrenの曲を聴いてくれることで、リスナーの生活がちょっとだけ楽しくなればいい、と。
そうして、「音楽の大量消費」をポジティブに捉える志向にMr.Childrenは変わっていった。
それも、スーパーマーケットで買われる刺身のつまやお茶請けと同じくらい、リスナーの生活の中にMr.Childrenの音楽が溶け込むことを、彼らは望んだ。
だから今作の主人公は、Mr.Childrenではなく「聴く人」なのだ。
『東京』も『エソラ』も『水上バス』も、「聴く人」が主人公になっており、誰もが感じたことがあるだろうノスタルジーを描き出した。
そうして 聴く人の人生のBGMとして溶け込み、寄り添う曲を作った。
「売れることは思ったより素敵な形じゃなかった」と言って、音楽が大量消費されることで生まれるジレンマを隠さなかった桜井さんが、このアルバムではそれを肯定した。
そして大量に消費される対象物として桜井さんが送り出した曲は、全てメジャーキーだった。
それは、世の中を、そして世の中を構成する一人ひとりの人生を、音楽の力で明るく照らしたいというMr.Childrenの思いの表れだったのかもしれない。
だからMr.Childrenの配信・サブスク解禁はある意味必然だったとも言える。
10年も前から彼らは、音楽の大量消費から生まれる奇跡を信じていたのだから。
昨日、iTunesランキングを見てみたら、当然といえば当然かもしれないがMr.Childrenのオンパレードだった。
↓iTunesアルバムランキングトップ100(2018/5/18)
桜井「多くの人のBGMとしてMr.Childrenの音楽が流れていることが嬉しいし、今はそれが誇り。」(『MUSICA』2009年1月号)
これから、ミスチルの音楽は今までよりもさらに大量に消費され、多くのリスナーの人生のBGMになっていく。
そして多くの人の心を救う。
Mr.Childrenの誇りは廃れない。
わたしは確信にも近い自信を持って今、そう言える。
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*1:『WHAT’s In?』2008年12月号
*2:『MUSICA』2009年1月号
*3:Mr.Children、全シングル&アルバム配信解禁の意義 柴那典がリスナーへの影響含め考察 - Real Sound|リアルサウンド
*5:『WHAT's In?』2008年 12月号