消えていく星の流線を

デフォで重め

BUMP OF CHICKEN『話がしたいよ』に仕組まれた妙

 

BUMP OF CHICKENの新曲、『話がしたいよ』


BUMP OF CHICKEN「話がしたいよ」

 

先日、彼らが4年ぶり2度目の出演を果たしたMステでも披露され、「やばい」「良曲すぎ」「めっちゃ名曲」との反響を呼んだ(筆者調べ)。

 

この曲は特に歌詞が稀代の素晴らしさではないかと思った。まるで一篇の短編小説を読んでいるような、淡々とした流麗さがあると。
https://www.uta-net.com/movie/257209/

 

『話がしたいよ』という曲には、3つの「妙」が仕組まれていると感じた。

ここではそのポイントごとに考察していく。

 

 

 

 

 

 


① バスを待つ時間だけで完結する物語

 

この曲は最初から最後まで、「主人公がバス停でバスを待っている時間に考えたこと」だけが描かれている。

 

はじめの一節では「バスが来るまでの間の おまけみたいな時間」という状況が説明されているし、最後は

バスが止まりドアが開く」と、主人公がバスに乗ろうとする描写で締めくくられる。

 

曲の最初と最後を「バスを待つ描写」と「バスが到着した描写」でサンドイッチすることで、主人公はこの曲中ずっとバスを待っていた、ということがわかる。

 

『話がしたいよ』は、バスが来るまでのほんの5~6分(もしかしたら1時間くらい待つ地域もあるだろうけど)の時間を、膨らみに膨らませた曲ということだ。

 

 

 

実際の歌詞は次のように進行していく。

  

────────────────────────


主人公はバスを待ちながらガムを噛み始める。

するとふと、君の苦手だった味 だなあと、「君」のことを思い出す。
ガムをきっかけに主人公は「君」の空想を始める。

 

ちなみに主人公は曲の最後で ガムを紙にぺって するまで、ガムを噛んでいる間ずっと「君」のことを考え続ける。
主人公の中で、「ガムの味」と「君」の記憶は密接に結びついているということだ。


主人公はガムを噛みながら、
この瞬間にどんな顔をしていただろう
一体どんな言葉をいくつ見つけただろう
ああ 君がここにいたら ……
と、「君」について考えを広げていく。

 

 

主人公の空想がピークに達するのは、2番
ボイジャーは太陽系外に飛び出した今も
秒速10何キロだっけ ずっと旅を続けている
というところ。
ここでは一旦「君」のことを考えるのはやめて、いきなり宇宙規模の話が始まる。
BUMPは宇宙や星に関する曲が多いので、ここはいかにもBUMP的。

宇宙や星の描写が多いことは藤原基央の作家性と言える。

 

その後、
急に 自分の呼吸の音に 耳澄まして確かめた
体と心のどっちに ここまで連れて来られたんだろう
どっちもくたびれているけど
と自分自身のことについて振り返る。

 

その次の2番サビ
どうやったって戻れないのは一緒だよ

から

今までのなんだかんだとか これからがどうとか
心からどうでもいいんだ そんな事は
いや どうでもってそりゃ言い過ぎかも いや 言い過ぎだけど
そう言ってやりたいんだ 大丈夫 分かっている
まで、再び「君」の話に戻る。

 

そして残った一番最後の1行は
ガムを紙にぺってして バスが止まりドアが開く 

 

「ガムを紙にぺって」したことで、主人公の「君」の空想は終わる。
そしてここまで散々「君」のことを考えて、宇宙まで空想を広げていたにもかかわらず、最後にはバス停まで意識を引き戻される。
この終わり方については後述。

 

─────────────────────

 

 

 

『話がしたいよ』の歌詞の構成をまとめると以下のようになる。

 

バスを待つ主人公

ガムを噛むと同時に空想(おもに君について)スタート

宇宙規模まで空想が広がる

ガムを噛み終わり空想終了、バスに乗る

 

 

風景描写と主人公の空想とを組み合わせて淡々と描かれていくのは、一人の男がバスを待っている、ほんの短い他愛もない時間。

 

「バス停でバスを待つ」時間というものは、きっとほとんどの人が体験したことがあるだろう。
そうやって誰もが想像できる場所を舞台にしたことで、聴く方はバス停の景色をまざまざと思い浮かべることができ、歌詞のストーリーに没入できる。

 

【誰もが経験したことがある場面を用いることで、リスナーが感情移入しやすくする】


これは歌詞を書くうえでのひとつのテクニックだが、恐らく藤原さんはこれを計算してやっている。

 

 

 


② 五感をすべて用いた詞

 

人の記憶と五感は深く結びついていると言われている(特に嗅覚と記憶の結びつきが一番強いという)。

主人公が、ガムの味をスイッチに「君」のことを思い出したのは先述のとおり。
だが実は味覚だけでなく、この曲の中には人の五感を表した歌詞がすべて含まれている。

 

街が立てる生活の音自分の呼吸の音 =聴覚
ガム君の苦手だった味 =味覚
信号機底の抜けた空 =視覚
肌を撫でた今の風 =触覚
夏の終わる匂い =嗅覚


【歌詞に五感を用いることで、シーンをより具体的に、より高精彩に聴き手に伝えることができる】


これも作詞のテクニックのひとつ。

 

 


作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治さんによると、Whiteberryの『夏祭り』でもこの手法が使われている。

https://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/abc/56318/740717/

 

君の髪の香りはじけた =嗅覚
空に消えてった打ち上げ花火浴衣姿がまぶしすぎて =視覚
金魚すくいに夢中になって袖がぬれてる =触覚
君の好きな綿菓子買って =味覚
ざわめきが少し遠く聞こえた =聴覚

http://j-lyric.net/artist/a002952/l000ac9.html

 

 


この2曲の歌詞が何も考えずただ感覚的に書かれたもので、五感にまつわる表現がたまたま揃ってしまった、なんてことはまさかないだろう。
そんなことがあったとしたら本当の天才だ(いや藤原さんは天才かもしれないけど)。

 

だから恐らく、この五感の描写は計算されたものだと思っている。

 

 

 

 

③ ドラマチックすぎない終わり方

 

J-POPの曲は以下のような構成で進んでいくことが多く、もちろんBUMP OF CHICKENの曲も例外ではない。

 

イントロ→(頭サビ)→
〈1番〉Aメロ→Bメロ→サビ→
〈2番〉Aメロ→Bメロ→サビ→
Dメロ→(落ちサビ)→大サビ

 

1曲の中で最も盛り上がるのはふつう、一番最後の大サビの部分。
頭サビや落ちサビは入らない曲も多い。

 


では『話がしたいよ』の構成はというと、以下のようになっている。

 

〈1番〉Aメロ「持て余した手を~」→Bメロ「だめだよ、と~」→サビ「この瞬間にどんな顔を~」→
〈2番〉Aメロ「ボイジャーは~」→Bメロ「体と心のどっちに~」→サビ「どうやったって戻れないのは~」→
Aメロ(アレンジ)「今までのなんだかんだ~ドアが開く

 


見比べてみるとわかるが、
『話がしたいよ』にはDメロと大サビがない。
こういうJ-POPの曲はかなり珍しい。

 

ちなみにAメロで終わる曲はしばしばある(Ex.コブクロ『桜』・Mr.Children『ギフト』など)。
J-POPの曲はだいたいAメロからサビに向かって音量が上がったり楽器が増えたりして、盛り上がっていくことが多い。つまりAメロは曲の中で最も抑えめな部分ということだ。
そんなAメロで終わることで、しんみりと曲を締める効果があるように思う。


『話がしたいよ』では、普通の曲なら一番盛り上がる大サビ(と、そこまで繋ぐDメロ)がカットされている。さらにAメロが最後に再現することで、静かに曲を締めている。

 

 

こういう終わり方にすることで、曲が盛り上がりすぎないようにした。恐らく意図的に。
この曲は「あえて過度なドラマチックさを排除した」のだ。
そろそろ口が酸っぱくなりそうだが、これも聴き手が感情移入しやすくするためだ。

 

 

 

『話がしたいよ』という曲は……

 

①  バス停という誰もが知る場所を舞台にすることで場面を想像しやすくした


②  人の五感すべての描写を入れ、より具体的かつ親近感がわくように場面を伝えた


③  大サビとDメロをカットし、Aメロで終わることであえて盛り上がりを抑えた

 

この3つの要素によって、聴き手は曲のストーリーを生々しいほどリアルに感じられる。

だから多くの人が風景を想像しやすく、感動しやすいというわけです。

 

 

 


【ついでに】個人的なツボ

 

ここからは余談だが、『話がしたいよ』の歌詞で個人的にツボだったところを抜き出してみた。

 

頬を撫でた今の風が 底の抜けた空が あの日と似てるのに

 今なんかちょうど風も気持ちいいし、秋晴れがきれいだから、ぴったりハマるな~

 

ちなみに、同じく大好きな歌詞なんだけど、コブクロの『蕾』の2番サビがこんな感じになっている。

風のない線路道 五月の美空は青く寂しく
動かないちぎれ雲 いつまでも浮かべてた
どこにも もう戻れない
僕のようだと ささやく風に
キラリ舞い落ちてく 涙

 

初めて聴いた小学5年生の時から大好きな歌詞……

青くて美しい空、そこに吹いた風。
さらに、ここにいない相手を思い浮かべている寂しさ。
『話がしたいよ』の先ほどのところと『蕾』のここには同じような感覚を覚える。

 

 

夏の終わる匂い

エモい……………もはや語彙力を放棄するがエモいという表現が一番合う……………
夏の終わりの曲はだいたいとても好き。

 

 

 

 

さて、『話がしたいよ』は誰もが感情移入しやすいように計算された歌詞が、エモさを醸し出していた。

 

11/14発売のシングルにはさらに、『シリウス』と『Spica』という名曲も入ってるらしいよ。
ちなみにわたしはこの中では『Spica』が一番好きだったりする。

 

またまたちなみにだけど、この2曲はこんなギミックが隠されていたりする。

 

シリウス』の終わりの歌詞「ただいま おかえり
『Spica』の終わりの歌詞「いってきます

 

つまりこの2曲は(アニメ『重神機パンドーラ』のOP・EDということもあり)セットになっているんだー!すごい!粋!

そう、これが捨て曲なしシングルだ!みんな買おう!(ダイレクトマーケティング