消えていく星の流線を

消えていく星の流線を

デフォで重め

斉藤壮馬さんの歌詞で遊んでみた。

 

ダンスホールから役者は去った

 


よっぱらっちゃったな

 

駅から出しな、手の甲を右、左、頬に当てる。
まるでト書きで定められたかのようになめらかな仕種だ、と思った。
ぼくはその手の右側数センチに位置して、つかの間、赤いサインに足止めを食らっている。

 

春にはまだすこし早いから、まだマフラーを手放せない。
そのくせ、花粉やら春一番やら、ピンク色の花々やすこしだけ長くなってきた昼間、春のきざしは容赦なく、ぼくなどにはお構いなく、迫ってくる。

 

ロータリー。
光と埃。
風とトレンチコート。
無数の白い歯。すこしの吐き気。

 

駅前の中心に立ち、ラムスデン現象よろしく体にまとわりついた、白けた空気を吸い込む。

 

ビッグボックス。
ツタヤ。サイゼ。マック。ビッグエコーベルサール高田馬場
早稲田松竹。と、その裏手にある古民家風カフェ。

 

ここが、ぼくらの世界の全貌だった。

 


「よっぱらうわけないだろ」
「なんでわかるの」
「なんでって。そんなの当然……」

 

ぼくの右手には、ファンタグレープ、
きみのそこにはサイダーの缶が、小さな破裂音をたてながら、握られている。
さよならとようこその願いを込めて、カンパイ

 

「人がね、よっぱらうのはねえ、酒だけじゃないんだよ」
「なにを偉そうに。酒なんか飲んだことないくせにさ」
「飲んだこと、ないけど、今よっぱらってるってことは、わかるよ」

 

にわかにきみは持っていた缶を花壇の縁に置くと。

 

シャルウィーダンス?
ぼくの手をとって、胸の高さまで掲げる。
翻るスカート。
ぼくらは、ローファーを互い違いに向かい合わせる。

 

あしたから、
きみはお気に入りの白のニューバランスを、
ぼくはスタンスミスを履くだろう。
言語化しないままに浮かんだそんな画をブレイクしたのは、春の陽光をフレットとフレットの間に閉じこめたエレキ・ギターだった。

 

フリック&タップできみが鳴らすSpitzは、この白濁の空気の甘ったるさを一層強める。
ふと吹き付けた生あたたかい風が不愉快で、ぼくはマフラーを外した。

 

気持ちいいねえ、春、気持ちいいねえ、としきりにブツブツ言う。
そのすこし前に出た八重歯も、ゆるい弧を描く前髪も、今日でおしまい。

 

「よっぱらうって気持ちいいねえ」
くるくる廻って、ついて、離れて、千鳥足。

 

「サイダーでよっぱらうのか、きみは」
「自分がよっぱらったって思えば、それはよっぱらったってことなのよ」
「おれもよっぱらってる?」
「そう思えばね」
未成年者飲酒禁止法違反だ」

 

いつだか深夜の山手線で見たみっともないオヤジ集団を思い出したけど、それも悪くないな。
今だけはきみをアルコールだと思って、
カシスミルクのようなこの空気によってみよう。
魔法が冷めてしまわぬように

 

 

──『ダンスホールから役者は去った』

 

 

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ダンスホール:『夜明けはまだ』

よっぱらっちゃったな:『夜明けはまだ』

春にはまだすこし早い:『デラシネ

高田馬場:『デート』

カンパイ:『デート』

シャルウィーダンス?:『光は水のよう』

フリック&タップ:『光はのよう』

魔法が冷めてしまわぬように:『フィッシュストーリー』

 

 

こんにちは! 

今回は斉藤壮馬さんの曲の歌詞をお借りしまして、短編小説のような何かを書いてみました。

こ、更新するネタがなかったとか、そういうのじゃないし……!?

 

めっちゃ端的に言うと、アニメやゲームのキャラみたいに、歌詞で二次創作してみるのもアリなんじゃないかと思ったのがきっかけです。

 

春ネタなので早く上げないと!!って焦った。

スピッツのやつは『春の歌』イメージです。そのまんま。


歌詞で二次創作めっちゃ楽しかったので、継続的に書いてみたいなと思ってます。

なお予定は未定!

 

 

 

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