花と凛のダ・カーポ ~HからRに寄せて
花と凛のダ・カーポ
変に浮き足立つ街は、しかし休日特有のだらーんとした空気を纏っている。
今だけ、この国全体の幸福度はほんの数パーセント上がっているように思えた。
刹那の休息を享受したぼくは、録り溜めたアニメをダビングしたり、映画を見に行ったり、とりあえず買ったはいいものの取り付ける暇がなく持て余していた洒落たウォールラックをついぞ生活に導入したりと、とくに収穫もなく徒花のように過ごしていた。
いつもの休暇と異なる点といえば、今日、そうさ、まさに今日、31年のピリオドが終わり新しいピリオドが始まること。
その時歴史が動いた。ぼくがその目撃者となること。それだけだ。
ゆとり教育をお腹いっぱい摂取したぼくらも、とうとう立派な社会人2年目になりました。
若さという剣一本だけで、どうにかこうにかクエストできるタームは終わったのだ。
ゆく河の流れは絶えることを知らない。
ぼくらは「古い時代」の人間になる。
ぼくらが疎まれ、煙たがられ、避けられ、あるいは葉から滴る雨の露ほども見向きもされない時代が、すぐそこまで来ている。
それでも、生きていかなくては。
たとえ時代が、切れてるバターみたいに区切られていて、新しいバターの欠片を切り落としたとしても、何も変わらない。
人間はいつの時代も、どこにいても、変わらないものだ。
それでも、
──最大震度は7、マグニチュードは9.0を記録、最高16.7メートルの津波が街全体を飲み込み、壊滅的な被害をもたらしています
ぼくらは、
──アメリカ、ワールド・トレード・センターに航空機が激突し、犠牲者・負傷者は莫大な数と見られ、邦人も多数巻き込まれたもよう
次の時代を、
──朝の通勤ラッシュの時間帯、地下鉄の車内にて何者かによって猛毒物質サリンが撒かれ、数千人が病院に搬送、13人の死亡が確認されました
生きよう。
桜が咲き、ややあって葉交じりになり、またややあって散り、アサガオが彩なしヒマワリが頭をもたげ、やがて萎み、キンモクセイと郷愁の空気が漂い、ポインセチアが紅く燃えては消える。
そして、
レンズフレアのかたちをした梅の香がふうわり、大気中をたゆたう。
いくばくかの幕間ののち、また激流の日々が開演する。ぼくは今、こう思う。
悪くないんじゃないか。繰り返すだけの、くだらないこの世界も。
── 花と凛のダ・カーポ