映画『HELLO WORLD』はいいぞ! ~セカイ系を愛する人、セカイ系を憎む人、ALL TALE LOVERSに届け
9月20日に公開されたアニメ映画『HELLO WORLD』を鑑賞しました。
結論から言うと、この映画は素晴らしいです。SFとしても面白い、そして心の琴線に触れる作品です。
ですが、巷ではそれほど話題になってないみたいでワシャ悲しいぞ!?!?
そんなこんなで、今回は映画『HELLO WORLD』の考察を少しと、ごり推し おすすめポイントを書き殴っていきます。
※後半ほとんどネタバレしてます。
この映画はできるだけ多くの方に観てほしいです。かつ、ネタバレ踏まずに観ていただきたい。
というわけで、未見の方はブラウザバックです。
ああ!!!でも読んでもらいたい!!!(矛盾) 鑑賞後にぜひ遊びに来てください!!
また、『天気の子』の内容にも触れざるを得なかったのでネタバレしてます。
こんな人こそ『HELLO WORLD』を観るべし!(ネタバレなし)
『HELLO WORLD』ってどんな映画?
まず『HELLO WORLD』とはどんな作品なのか、見てみましょう。
京都に暮らす内気な男子高校生・直実(北村匠海)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミ(松坂桃李)が突然現れる。
ナオミによれば、同級生の瑠璃(浜辺美波)は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうと言う。
「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。
しかしその中で直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、そしてこの現実世界に隠された大いなる秘密を知ることになる。
世界がひっくり返る、
新機軸のハイスピードSF青春ラブストーリー。
ここまでが予告編で明かされる内容です。
「僕らは、現実世界の“記録”(データ)だった」。
つまり本作の軸は、電脳空間で繰り広げられるSFであり、
また、『君の名は。』以降リバイバルの波が来ている、所謂「セカイ系」ど真ん中の作品です。
SFを愛する人、セカイ系を愛する人、物語に触れたことのあるすべての人に捧ぐ映画、
それが『HELLO WORLD』だと思います。
そして実は、セカイ系が苦手だと感じる人にこそ、観てほしいと思ってたりします。
SFに慣れ親しんだ人でないと、結構難解だと感じるかもしれません。
この難解さを乗り越えれば、めっちゃ心に響くものがあるはずです。
でも! もし! もしもね! 理解できなくてもOK!
この映画はたしかにかなり本格的なSFですが、それだけで終わりません。
ラブストーリーとしてちゃんと成立しているから、SF部分を完全に理解できなくても楽しめる。それもこの作品のいいところです。
とにかく主人公もヒロインも、みんな幸せハッピーエンド。これは確実なので、きっと観た後は清々しい気持ちになれるはずです。
こういう子が見たかった! 王道ヒロイン「一行瑠璃」
まずなんといっても語るべきは、ヒロイン・一行瑠璃の存在でしょう。
本当にカワイイ。たまらない。ドキドキしちゃったよまったく!(ちなみに筆者は女で、普段は男性アイドルと男性声優のファンである)
ツインテハーフアップのツンデレ美少女なんて美味しいに決まってるやんけ。
しかも王道すぎて使い倒されていた反動からか、ここ最近のアニメではこういうキャラがなかなかいなかったので、かえって新鮮にかわいく見える。
「一行さんカワイイ」と思えたら、この映画は9割5分あなたの勝ちです。
『HELLO WORLD』が本当に伝えたいこととは?
『HELLO WORLD』最大のカタルシスは、「物語へのを愛を丸ごと肯定してくれた」ということです。
主人公とヒロインが本好き、というのがカギ。
パンフレットにて企画・プロデュースの武井克弘氏は、「この映画はある種の“メタフィクション”になっている」と語っています。
つまり『HELLO WORLD』は、この映画自体という物語を通して、「物語とは何ぞや」という問いに対する明確な答えを提示してくれました。
詳しくはネタバレ部分で語りますが、結論だけ言ってしまえば、
『HELLO WORLD』は物語を観ること、読むこと、そして生み出すこと──。物語を愛することを、まるっと包み込むように、肯定してくれたのです。
これが、「物語に触れたことのあるすべての人」にこの映画を観てほしいと言う所以です。
さて、以下からはネタバレありで考察してみたいと思います。
未見の方は、鑑賞後にぜひまた来てくださいね!!!!!(圧強)
『HELLO WORLD』考察&感想(※ネタバレあり!)
『HELLO WORLD』の世界は、京都で起きるすべての事象を記録するデバイス「ALLTALE」(以下:アルタラ)の中に、さらにアルタラが存在するという、マトリョーシカのような入れ子構造になっています。
そこでこの記事では、わかりやすくするため以下のように呼びます。
大人イチギョウルリのいる月の現実世界(2047年):現実世界
大人カタガキナオミのいるアルタラ(2037年):第1アルタラ
堅書直実と一行瑠璃のいるアルタラ(2027年):第2アルタラ
『君の名は。』との比較
『HELLO WORLD』は、さまざまなSF作品の影響のもとで作られています。
具体的な作品名はパンフレットのほか、いろいろなブログでも詳細に語られています。
わたしはまだまだ勉強中のにわかSF好きなので(泣)、ここでは『君の名は。』に特化し、比較してみます。
『君の名は。』と『HELLO WORLD』の共通点は主にこの3点です。
・ボーイミーツガール、男子が女子を救う
・タイムリープしている
・日本語詞の挿入歌を効果的に使用している
はっきり言って、この2作品はかなり似ています。
しかも、『HELLO WORLD』公式サイトにも『君の名は。』のタイトルが出てくる。
『君の名は。』以降、
新境地に到達した日本のアニメーションは、
この秋きっと、新たなセカイ〈HELLO WORLD〉の扉を開く事になる。
これが意味するのは、似てしまったのではなく、東宝が「意識的に『君の名は。』に似せて作った」ということです。
かと言って、まるまる『君の名は。』オマージュなのかというと、それも違う。
『HELLO WORLD』は完全なるオリジナルアニメーションとして、過去のセカイ系作品の王道を踏襲しつつ、その集大成とも言えるほど完璧なストーリーを確立したのです。
この2つの作品の決定的な違いは、タイムリープの手段が「アナログ」か「デジタル」か、ということです。
タイムリープの手段 比較
君の名は。:「口噛み酒」と、三葉が瀧に渡した「組紐」、また「組紐は時間の流れそのもの」だという言い伝え
HELLO WORLD:「アルタラ」内部に入り込むこと
この「アナログ」と「デジタル」の差は、2作品の唯一とも言っていいくらいの違いですが、かつまったく異なるテイストの映画に仕立て上げている決定的な要因でもあります。
仮想世界を救おうとする『HELLO WORLD』の設定は『サマーウォーズ』みが強い。『サマーウォーズ』っぽいと思った人は多いかもしれません。パンフレットでもサマーウォーズの話がチラッと出ています。
ちなみに、『HELLO WORLD』は制作協力に新海誠監督を擁するコミックス・ウェーブ・フィルムがいます。
直実が第2アルタラから第1アルタラに移動する時、赤青緑などカラフルな線がたくさん出てきます。
ここは、『君の名は。』で瀧くんが口噛み酒を飲んで三葉との入れ替わりに成功するシーンに似ています。
第1アルタラと第2アルタラの緩衝地帯とも言える寺のような場所で、線画が赤いのもコミックス・ウェーブっぽいですね。
Cf.『言の葉の庭』
光が当たっている部分の線画が緑や白っぽくなっている。
『HELLO WORLD』は新時代、令和の「セカイ系」を提示した
『君の名は。』と同じく新海誠監督作品で、今年公開された『天気の子』も、セカイ系作品として言わずもがな大ヒットしています。
しかし、同じセカイ系はセカイ系でも、『HELLO WORLD』は『天気の子』とは一線を画しています。
『天気の子』の主人公は最終的に、ヒロインを助けて世界を犠牲にすることを選ぶ。
これはこれでひとつの正解に違いはないです。
一方で、これは本当にハッピーエンドと呼べるのか? とモヤモヤっとする疑問を覚えた人も多いでしょう。
ちなみにわたしの母も『天気の子』を鑑賞したのですが、ど~してもこのラストが気に入らないようでした。「絶対何人も人死んでるじゃん」と。
この結末については、新海監督自身も批判を覚悟していた……
というか「『もっと批判される映画にしたい』と思って作りましたし、それが創作の原動力になってもいる」と語っています。このモヤモヤ感はむしろ、あえて作り出されたものだったようです。
対して『HELLO WORLD』では、物語のラストで世界が新しく生まれます。誰も傷つくことなく、堅書くんも一行さんも、現実世界のナオミもルリも、皆幸せになっている。
誰がどう見ても揺るぎない、完全なるハッピーエンドです。
なので、『天気の子』がどうにも苦手だったという人も受け入れやすいかと思います。
このラストについては、制作側も脚本の段階でかなり悩んだそうです。
『HELLO WORLD』は王道のセカイ系をギュッと濃縮した集大成的な作品ですが、ラストだけは既存作品とは違うものにしたかったようですね。
そしてこの結末こそが、『HELLO WORLD』をまったく新しい「新時代のセカイ系」に昇華させました。
開闢とタイトル「HELLO WORLD」
すでにちょっと触れましたが、『HELLO WORLD』のラストでは、第2アルタラが第1アルタラから脱出し、新しい世界として生まれました。
これを作中では「開闢(かいびゃく)」と呼んでいます。
(これを言う博士がまたたまらんのだ……。CV.子安武人は無敵に決まっている……)
そもそも「HELLO WORLD」はプログラミング用語で、Wikipediaでは以下のように示されています。
ハロー・ワールドは伝統的にプログラミング言語をプログラム初心者に紹介するために使われる。また、ハロー・ワールドはプログラミング言語が正しくインストールされていること、およびプログラミング言語の使用方法を理解するための健全性テスト(Sanity Test)にも使用される。
つまり、プログラミング言語を使ってコンピュータ内に新しい世界を作り出そうと思ったら、必ずといっていいほど「Hello, world」の入口をくぐる必要があります。
一方、映画の中での「開闢」とは?
開闢:第2アルタラが第1アルタラから脱出して月に行ったことで、第1アルタラは「新しい世界」として生まれた。
電脳世界が舞台であること、そして新しい世界が生まれること。
これが「HELLO WORLD」というタイトルに帰結しています。
なんて綺麗なタイトル回収なんですか!!!180度回って怒りたいくらい完璧すぎる。
観客もストーリーの参加者? メタフィクション的に見ると……
アルタラの中の京都府庁にはさらにアルタラがあり、この第2アルタラ内の京都府庁にもアルタラがありました(子ども堅書直実が見学に行っていた)。
これは予想ですが、恐らく第2アルタラ内のアルタラ(第3アルタラとも呼べる)には、さらにアルタラがあるに違いありません。
つまり、アルタラは合わせ鏡のように無限に存在するのではないか、と。
その一番外側に、今は月で営まれている「現実世界」があります。
物語がスタートするのは第2アルタラ内部。その外には第1アルタラがあり、さらにその外には大人イチギョウルリ率いる現実世界がある。
それを把握した上で、大事なのはこの続きです。
第2アルタラ、第1アルタラ、月の現実世界。
そして、それらすべてを展開していたスクリーンの外には、我々がいるガチの「現実世界」がある のです。
つまりこの映画はメタフィクション的にとらえると、実は3重ではなく、わたしたち観客も含めた4重の入れ子構造になっている、ということ。
スクリーンの中はフィクションの世界だけど、この現実と切り離されているわけじゃない。スクリーンはわたしたちとフィクション世界を分断するものではなく、実は「繋いでいる」ものなんです。
だからわたしたちは、いつでもフィクションの世界に入り込むことができるんだ、とこの映画は伝えてくれます。ナオミやルリがアルタラ内部に入り込んだように。
そうして、物語を観ること、読むこと、そして生み出すことに希望を与えてくれた。
それが映画『HELLO WORLD』の最大のカタルシスでしょう。
「開闢」のメタ性
また、「開闢」についてもメタ的にとらえることができます。
開闢=アルタラがビッグ・バンを起こし、新しい世界が生まれること。
京都のすべての事象を記録するアルタラは、世界にとっての「脳ミソ」だと言い換えることができる。
人間が物語を生み出す時。
その瞬間、脳でビッグ・バンが起きることで、新しい世界を生み出すことができるのかもしれない。「開闢」と同じです。
つまり 開闢とは、人間が物語を生み出す過程をなぞったメタファー なのではないか?
『HELLO WORLD』が「物語」自体のすべてをメタ的に肯定している、というのはこういうことです。
セカイ系苦手勢にこそおすすめしたい『HELLO WORLD』
一般的にエヴァから始まるセカイ系では、男子が「女子の命 or 世界」どちらを守るか選択を迫られます。
『HELLO WORLD』も、堅書直実という男の子が、一行瑠璃という女の子を救う物語として進んでいきます。
途中までは。
ところがラストシーン、現実世界に舞台が移ったところで、実はイチギョウルリがカタガキナオミを救う物語だったのだと明らかになる。
男子が女子を救う話かと思いきや、実は女子が男子を救う話だったのです。
ラスト1秒でひっくり返ったもの、それは「ボーイミーツガール」から「ガールミーツボーイ」へ、ということ。
つまり、男子主導で進んでいく今までのセカイ系にモヤッとしていた人も、『HELLO WORLD』を受け入れられる可能性が高いのではないでしょうか。
女子主導という新しいセカイ系作品の可能性を開いたこと──。
「HELLO WORLD」というタイトルには、そういう意味も込められているようです。
疑問・小ネタ覚書
以下は疑問やちょっと気づいたことなどのメモ程度の覚書です。
・意識の行き来について
「量子データの行き来はできない」とナオミは言っていたが、実際は意識が行き来している。
ナオミがアルタラ内に入ってきた時、直実の脳にはナオミの記憶(京斗大学で学んでいた際の実験用マウスなど)が流れ込んでいる。
・カラス=イチギョウルリについて
ラストシーン、ナオミが目覚める際に、カラスとルリの顔がオーバーラップすることで、あのカラス=イチギョウルリのアバターなのだとわかります。
カラスが喋るのは、直実が第2アルタラと第1アルタラの間の緩衝地帯に飛んだ後のみ。
つまり、現実世界のイチギョウさんは第1アルタラにのみ干渉できるということ。
そして第2アルタラ内ではカラスは喋らなかったことから、アルタラ内のアルタラに意識を移すことは不可能なのかも。
・努力する主人公
突然ですがわたしは異世界ものとか異能力ものが苦手です。
それは、「何でもアリ」な話が大嫌いだからです。物語は縛りがあってこそ面白くなるはずなので。
作中、直実は「神の手(グッドデザイン)」と呼ばれる手袋状の道具を使い、さまざまな物を無から作り出せるようになります。これはたしかに異能力の一瞬ですが、しっかり練習していたところが良かった。
中盤のヤマ場で、ブラックホールを作った時は泣いちゃいそうでした。
わたしたち観客は、堅書くんがたくさんたくさん練習しているところを散々見てきたので、あのブラックホールが努力の賜物だとわかる。
だから否応なく感動してしまうんですよね。ブラックホール作れちゃうなんて……!アンタ凄いよ……!!
・アクションについて
自転車で移動するシーンで、30秒足らずほどPOV、つまり主人公視点になります。ここはSAOっぽいなと思いました。
あと、動画にufotableがいました。
『鬼滅の刃』で最近話題の制作会社ですね。
アニメが終わってロス中の鬼滅の刃勢はぜひ『HELLO WORLD』を観ましょう。
鬼滅の刃勢じゃない人も観ましょう。
本作、初週の週末映画ランキングでは6位で、興行収入は2億円ちょっと。
悪くはないですが、もっともっとバズるべき作品だと思ってます。レベルとしては絶対この30倍くらいいける。
2回鑑賞したんですが、メモを取らずに観たのは失敗だった。
観ながら、こ、これは書きたい!と思ったことがあった気がするんですけど内容が濃すぎて忘れました(笑)
もう一回観に行くかもしれないです。思い出したら追記します。
あと、秋クールのアニメ『バビロン』は野崎まどさん原作だそうなので、こっちも楽しみにしてます。
SFを愛する人、セカイ系を愛する人、セカイ系を憎む人、物語を愛するすべての人に観てほしい映画『HELLO WORLD』。
損はさせません。チケット代1,900円の元はきっと取れるはず、一見の価値ありです。