【ネタバレ】映画『青くて痛くて脆い』感想 ~青くて痛いことは、脆くない
映画『青くて痛くて脆い』(通称「くてくて」)を鑑賞しました!
みんな違ってみんなボブ。
ボブの女優見放題の良い映画でした。
ボブはさておき、今回は ネタバレあり で映画『青くて痛くて脆い』の感想を書いていきます。
※ 未見の方はブラウザバック推奨。
※ 原作未読です。映画についてのみ語っていくのでご容赦ください。
※ セリフの引用はうろ覚えです。
◆映画『青くて痛くて脆い』とは
彼女は死んだ──
僕は忘れない。
人付き合いが苦手で、常に人と距離をとろうとする大学生・田端楓と
空気の読めない発言ばかりで周囲から浮きまくっている秋好寿乃。
ひとりぼっち同士の2人は磁石のように惹かれ合い秘密結社サークル【モアイ】を作る。
モアイは「世界を変える」という大それた目標を掲げボランティアやフリースクールなどの慈善活動をしていた。
周りからは理想論と馬鹿にされながらも、モアイは楓と秋好にとっての“大切な居場所”となっていた。
しかし
秋好は“この世界”から、いなくなってしまった…。
──公式サイト「STORY」より
はい。
ここまで読んだ人の中で、これから映画を観ようかな~と思ってる人。
ここから先読まないでください。マジで。
鑑賞後に遊びにきてね!
はい。
「秋好は“この世界”から、いなくなってしまった…。」とある。
上手い書き方だなと思う。
ふつうこの書き方だと、秋好は死んでしまったのだと考えるだろう。
実際、キャッチコピーにも「彼女は死んだ」とあるし、「(秋好は)死んだんだ」という楓のセリフもある。
だが実際には、それは物理的な「死」ではなかった。
“この世界”というのは、「地球」や「現世」という意味の世界ではなく、「楓の中」という意味だったのだろう。
秋好は変わってしまった、ということを、楓は「死んだ」と言い表した。
アニメ『ユーリ!!! on ICE』でも、ユリオが「ヴィクトル・ニキフォロフは死んだ」というセリフによって、ヴィクトルが変わってしまったことを表していた。
◆映画『青くて痛くて脆い』考察
「言ってくれなきゃわからないよ」
楓はとにかく内気で、思っていることを口に出さない男だった。
秋好はそれと正反対で、思ったことを何でも口に出してしまう。
たとえ授業で教授が話している途中だろうと、グイグイ質問する。
つまりこの映画は、
言わない人:楓
言う人:秋好
の対比になっている。
ふたりは正反対だからこそ仲良くなれたし、だからこそ、逆に関係性が壊れてしまったわけだ。
その対比が最も顕著になっていたのが、「説明会」として秋好が楓を呼び出した、大教室でのやり取りだった。
ここの会話劇はとてもリアリティーがあり、見事だった。
だってこのシーンのふたりは、まったく話が嚙み合っていない。
楓「モアイから俺を切り捨てたくせに」
秋好「切り捨てた? 勝手に出て行ったのはそっちでしょ?」
楓「まあ気づかなくて当然かもな。あの時のお前は恋愛にうつつを抜かしていたし」
秋好「嫌なら、言ってくれなきゃわからないよ!」
楓「そんなもの、言わなくても察しろよ!」
……こんな具合に。
楓は「言わなくても察しろ」と言ったが、その相手として秋好は最悪である。
なぜなら、秋好は最強に鈍感だから。
先ほどの会話はこう続く。
秋好「……もしかしてあんた、私のこと好きだったの? それで嫉妬してあんなことしたの?……気持ちわるっ」
(予告編でも出てくる部分)
いや、今気づいたのかよ。(笑)
秋好と脇坂が付き合ったタイミングで、楓はあからさまに秋好のことを避けはじめた。
ふつうは。
ふつうはね。ここで気づくんだよ。
あれ? 楓、私のこと好きだった? って。
この時点で楓の気持ちに気づけない秋好は、最強に鈍感なのだということがわかる。
だから「言わなくても察しろよ」なんて、秋好にはどだい通じない話だ。
そもそも秋好のあのクソウザい性格で、明らかに周囲に疎まれているにもかかわらず、ここまで平気でやってきているのは、鈍感だから以外の何ものでもあるまい。
しかし、【楓vs秋好】の構図においては、秋好のほうが一枚上手だったと思う。
なぜなら、秋好はおそらく鈍さを自覚していて、楓の気持ちをきちんと聞き出そうとしていたのだから。
脇坂がモアイに入ってメンバーが増えてきたタイミングで、モアイの方向性は変わりはじめていた。
そのうえで、秋好はちゃんと現状に違和感をもっていて、楓にヒアリングを行おうとしていた。
「楓は、今のモアイをどう思う?」
そこで楓はこう返した。
「んー。秋好がいいなら僕もそれでいい」
いや絶対ダメだろ、この男。
秋好はちゃんとお前の気持ちを聞こうとしたじゃん。
そんでお前、何も言わなかったじゃん。
お前が秋好に決定を委ねたんじゃん。
なのにそれでキレて、「言わなくても察しろよ」はダメすぎるだろ。
100%楓が悪い。
と、こんな風に、楓はとにかく「自分」というものを持っていない。
ここまでのシーンで「僕」主語で意見を言うことはほとんどないのである。
ところがあの大教室で秋好とぶつかってからは、「僕」としての考え方ができるようになる。
「僕がモアイを壊した」と告白したツイートでは、「僕はなりたい自分になれなかった」など、自分の考えを「僕」主語でとうとうと語っている。
『青くて痛くて脆い』は、軸を持たない楓というダメな主人公が、「自分」を確立していくお話なのである。
「青」い画面
タイトルにちなんで、青い色味が多用されている。
終始青い画面は、観ていて心地よかった。
董介(とうすけ)のマンションも、おそらく青いビルを捜したのだろう。
そして多くのシーンで、楓は青い服を来ている。
デニムパーカーや、青のストライプシャツなど。
モアイのサークルTシャツも青いデザインである。
しかし映画のラストシーンで、楓は秋好の目の前に立ち、話しかけようとする。
(おそらくこの後、秋好に謝るのだと思う)
そこでは、楓は赤いジャージを着ている。
楓はモアイ奪還の件を通して、「言わない人」から「言う人」へと変わることができた。
「言わない人」だった楓は青い服。
「言う人」になった楓は赤い服。
このように、色で楓の変化を表現しているのだろう。
「秋繋がりだ」
「楓? 紅葉とか楓の、楓? じゃあ秋繋がりだ」
この秋好のセリフではっきりと示されるように、秋好と楓の名前には「秋」という共通点がある。
楓がモアイ奪還計画を実行したのは夏である。
それは、モアイの交流会の日付が「2020年6月」であることや、テンを中心にバーベキューが行われることなどからわかる。
そしてモアイは解散。
その後ラストシーンで、楓は秋好に謝ろうと話しかける。
この時、先述のように楓がジャージを着ていることから、秋だろうとわかる。
秋好と楓は、おそらくこのラストシーン以降、関係性を修復していくことになる。
そのきっかけとなった季節、ふたりの友情が再スタートをきった時季が「秋」だった。
だからふたりの名前には、象徴的に「秋」が入っているのだろう。
青くて痛くて……脆い?
この作品のタイトルはセリフの中で少しずつ回収されていく。
「こういう青臭いことができるってすごいと思うんです」
という川原のセリフや、
「痛いよねwww」
と、モアイの活動を馬鹿にする学生の声など。
しかし、このようにタイトルにある「青くて」と「痛くて」は何度か出てくるが、「脆い」だけはセリフとして出てこない。
これが意味するものは何?
思うに、「脆い」というセリフを出さないことで、「脆い」という言葉を否定しているのではないだろうか。
つまり、「青くて痛」いことは、けっして「脆」くはないんだ、と逆説的に表している。
◆総評
この映画には、「世界を変える」という言葉が多く出てくる。
楓は自分の意見を言えない男だったが、楓もまた、深層心理では世界を変えたいと思っていた。
しかし、この物語自体は「楓の変化」という内省的なものに終始している。
秋好は“この世界”から、いなくなってしまった…。
ストーリー紹介における“この世界”も、楓の内部世界のことである。
そして、解釈が分かれるかもしれないが、この映画はハッピーエンドだったと、わたしは大手を振って言いたい。
確かに楓がしたことは最悪だ。
でも(勝手に)傷つきながら、そして秋好を傷つけながら、楓は「自分」を表現できるようになった。
彼は、彼の世界は変わることができた。
それを人は「成長」と呼ぶのだろう。
◆映画『青くて痛くて脆い』:公式サイト
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
エモで生きてる声優オタク
質問・感想など:こちら にいただけるとうれしいです。