消えていく星の流線を

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【ネタバレ】映画『ジョジョ・ラビット』感想 ~靴紐を結んで、少年は歩きだす

 

こんにちは。

コロナショックで、2月末からホワイトデーまで推し声優さんに会えたはずのイベント5つぶっ飛んだオタクです。

というわけでやることがなくなり、ジョジョ・ラビット(原題:Jojo Rabbit)を遅ればせながら観ました。

 

以下、 ネタバレあり で『ジョジョ・ラビット』の感想を書いていきます。

未見の方はブラウザバック推奨。

 

セリフの引用はうろ覚えです。

 

 

 

 

◆ 映画『ジョジョ・ラビット』とは?

 

 

 

 

 

時は第二次世界大戦下。のちにヒトラーが自殺した話が出ること(1945年4月30日)を考えると、大戦末期である。

 

主人公はドイツ人の10歳の少年、ジョジョ

ヒトラーに憧れるジョジョは、イマジナリーフレンドである“ヒトラー”と日々会話を交わす。

そしてナチの党の青少年組織「ヒトラーユーゲント」に入団する。

キャプテン・K大尉らによる指導のもと、ジョジョたち青少年は訓練を積むことになる。

キャプテン・Kは戦闘で右眼をやられ、ここの教官に左遷されたのだった。

彼は挨拶代わりに、少年たちの頭上をかすめながら5発、6発と、踊るように発砲してみせる。これがめちゃくちゃカッコイイ。

 

訓練は、男子は銃の撃ち方など実戦的なもの。

女子は怪我の手当ての仕方、それに最も重要なものとして妊娠の仕方などを習う。そこで「わたしは18人も産んだのよ。女にしかできない仕事をするの」と横槍を入れる太っちょの女教官、いい味出してるぞ。

 

しかしジョジョはウサギ一匹殺すことができず、臆病者の「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名を付けられてしまう。

そこで教官は「父親は戦場から逃げ出したきり音信不通、親子そっくりだな」と言い放つ。

のちに明らかになることだが、ジョジョの父親は反ナチ運動に参加していた(ため、恐らく処刑されたのだと思う)。

 

その後、ウサギは勇敢でずる賢く強い。お前はウサギであれ」と“ヒトラー”に鼓舞されたジョジョは、開き直って再び訓練に参加。

しかし手榴弾を投げ誤り、顔は何針も縫い、足が不自由になる(といっても普通に歩ける程度)醜い姿になってしまう。

障害を抱えたことから、みなと同じ訓練にも参加させてもらえなくたったジョジョ。そこからはチラシ貼りや武器を作るための金属集めなど、雑用をこなすことになる。

ヒトラー”以外に友人といえるのはただ一人、明るく穏やかな性格のヨーキーだけ。

 

父も姉も失ったいま、ジョジョの家族は母親だけであった。強く美しい母親は、軍に直接抗議しに行き、ジョジョが不当な扱いを受けないよう取り合った。

そして落ち込むジョジョを励ますのも、いつも彼女である。

「悲しいときは踊るのよ」

 

そんな時、ジョジョは姉・インゲの部屋に隠し扉があるのを見つける。

なんとそこにはユダヤ人の少女・エルサが匿われていた。もちろんジョジョの母親のしたことである。

ヒトラーユーゲントで叩き込まれたような醜いユダヤ人のイメージとは異なり、エルサはとても美しい少女であった。そして、姉のインゲとよく似ていた。

エルサは「通報したければすれば?あなたの母親もあなたも協力者だって言うわ、皆死刑よ」ジョジョを脅す。

 

エルサはインゲと友人であった。

のちに明らかにされるが、エルサはユダヤ人の親戚などのツテを辿った末、この家に匿われていた。

 

ジョジョはユーゲントで大人たちが話していたことを思い出す。

ユダヤ人の見分け方がわかる本があればいいよな!売れるぞ」

 

ジョジョはエルサからユダヤ人についての情報を聞き出し、本を書くことを決心する。

エルサは冗談交じりに(というか9割方冗談)、ユダヤ人について語っていく。

そのうち、ジョジョはエルサ自身に惹かれるように……。しかし、ジョジョはまだ「ナチとユダヤ人がキスすることなんて有り得ない」といって、自身の気持ちを否定する。

 

そんな時、ナチ党の秘密警察(ゲシュタポ)がジョジョの家を捜索しに来た。恐らく、ジョジョの母親が検挙されたためである。母親も父親と同じく、反ナチ運動に参加していたのだ。

エルサ、大ピンチ──!

しかしそこにタイミングよくキャプテン・Kとその部下がジョジョ宅を訪ねて来る。

そして聡明なエルサは、自身がインゲと似ていることを利用し、堂々とゲシュタポたちの前に姿を現す。「ハイル・ヒトラーと挨拶しなければならない屈辱に耐えながら。

キャプテン・Kはエルサに身分証を出させ、インゲの誕生日を言わせるが、エルサはインゲの誕生日を微妙に間違えてしまう。しかし、キャプテン・Kはそれに気づきながらも見逃すのだった。良い人だ。

 

無事に難を逃れたジョジョは街に繰り出す。そして、そこで信じられない光景を目にする。

ただ一人の家族であった母親が、首を吊られ晒されていた。反ナチ運動をしていたことがバレ、処刑されてしまったのだ。

 

悲しみに暮れるジョジョ。さらに戦況も悪化し、敗戦が濃厚になってきていた。

ついにはジョジョたちの街にも、アメリカをはじめとする連合軍が攻め入ってきたのだ。

そこでジョジョはヨーキーから、ヒトラーが銃で自殺したことを聞く。

ヨーキーは言う。

ヒトラーは裏でいろいろ悪いことしてた。俺たち間違ってたんだ」

 

体に手榴弾を括りつけられ「このままアメリカ人にハグしてきなさい」と、特攻まがいのことをさせられる子どもも。ヨーキーも銃を持たされ、実戦に駆り出される。

(なお、戦局が悪化していった1944年、ヒトラーユーゲントは国民突撃隊に併合されているため、このような攻撃がなされた)。

 

ジョジョアメリカ人に捕らわれてしまう。そこには怪我を負ったキャプテン・Kもいた。

「母親のことは気の毒だった」と言うキャプテン・K。やっぱり良い人。

さらには、ジョジョユダヤ人であると一芝居打ち、ジョジョをそこから逃れさせるのである。

「早くここから失せろ!ユダヤ人!こんなガキ知らん!」

そのすぐ後、けたたましい銃声が響き渡る。

 

そしてアメリカがこの街を占拠し、戦争は終わりを迎える。

ヨーキーはジョジョに言う。

「お前のカノジョ、もう自由だぜ」

そしてジョジョも、イマジナリーフレンド“ヒトラー”と別れを告げる。

「ファックユー!ヒトラー!」と言って。

平和が訪れた街で、ジョジョとエルサはツイストを踊るのだった。

 

 

 

 

あらすじはこんな感じ。

 

●わたしのイチオシは「ジョジョとヨーキーの友情」ですね。

ジョジョは雑用係をしているので訓練中のヨーキーとはなかなか会えないんだけど、たまに会うと必ずハグをする2人にキュン死。

ショタコン必見ですよ。

 

●挨拶のことを「ハイル・ヒトリング」って言ってた気がするんだけど、気のせい?

 

●ナチ党の事務所にクローン人間が6~7人いたのは笑った。

ナチス・ドイツは実際に、ユダヤ人たちを被験者としたさまざまな人体実験を行っていた。

ユダヤ人たちを骨の髄まで「有効活用」していたのである。

それらは筆舌に尽くしがたい実験ばかりだったが、クローンを作っていたという記録は(わたしが調べる限り)見られない。

ここは「もしナチがクローンを作る実験をしていたら」というif設定なのだろう。

 

●あとドイツ人たちが英語喋ってるのがすごく違和感あるんだけど、アメリカ人はそういうの気にしないんだろうか。

 

 

 

 

◆ 感想:ファッション

軍服にはじまり、ジョジョの私服、ジョジョの母親らがとてもおしゃれで見入ってしまった。

魅力的なファッションの数々は、公式サイトのSTORYのページでも楽しめる。


 

欧米の軍服好きなんですよね、あ、ヘタリア履修済みなので……。

というわけで、ドイツ人の軍服おいしいもぐもぐ。

ジョジョのイマジナリーフレンド“ヒトラー”ももちろん軍服を着ているが、空想上のものということもあり、ものすごく綺麗に着こなしていて眼福。

 

 

ジョジョの私服は黄色いチェックシャツを着回していることが多かった。戦時下で服をそれほど持っていなかったためだろう。

でもその着こなしがとても上手。紫っぽいハーフジップのニットを合わせていたり、ベージュのピーコートを着たり。

 

 

ジョジョの母親がめちゃくちゃおしゃれだった。

上のサイトでも見られるが、グリーンのシャツに同系色の柄のカーディガン。

明るい赤色のボーダー柄ニットポロ。

 

また、ボルドーとホワイトのツートンのレースアップシューズを履いていた。メリージェーンっぽいやつ。

後述もするが、この靴は『ジョジョ・ラビット』のなかでとても重要な意味をもっていた。

 

あのご時世でここまでおしゃれを楽しむ人がいたのかはわからない。

だが、少なくとも彼女は戦争が早く終わることを望んでいた。

この時代にあっても自分らしさを失わない……そんな強い意志を、ファッションで表していたのだろう。

 

 

●さらにユダヤ人の少女エルサも、いつもほぼ同じ服を着ていたが、季節が秋に入ると羽織っていたアジアンテイストなジャケットが可愛かった。

 

 

 

◆ 考察:音楽

この映画の音楽には、数々のポップやロックが使われている。

これらはアーティストも、国も、さらには時代もまちまちである。

冒頭でOPテーマ的に流れる The Beatles『I Want To Hold Your Hand』(ドイツ語バージョン)はかなり印象的。

 

わたしは恥ずかしながら The Beatles しかわからなかったのだが、The Monkees や Love、デヴィッド・ボウイなどが使われている。

音楽については以下の記事を参考とした。

「オスカー作品賞ノミネート!映画『ジョジョ・ラビット』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

 

これらはいずれも1960年代以降のアーティストであり、『ジョジョ・ラビット』の時代とは一致しない。

つまり、音楽と映画の内容は直接には関係がない。

ここから、この映画は歴史改変的なエレメンツも含んでいることがわかる。

 

 

そして最も重要なのは、これらのアーティストがいずれも アメリカ人かイギリス人である ということだ。

言わずもがな、ドイツの敵であった国たちである。

ドイツの少年を描きながら、ドイツ人の曲は使わず、敵国のものばかり使う。

なぜか?

 

それは、「ドイツか敵国か」といった区別にジョジョが無関心だからだ。

 

ジョジョの目から見れば、戦争だの、敵国だのはある意味どうでもいいことなのである。

それより彼にとっては、イマジナリーフレンド“ヒトラー”への敬愛や、母親への愛、エルサとの恋愛、ヨーキーとの友情のほうが重要事項なのだ。

冒頭で『I Want To Hold Your Hand』が流れるのは、この映画が実はジョジョとエルサの純粋なラブストーリーであることを示している。

 

 

 

◆ 考察:ダンス

ジョジョの母親や、ラストシーンでジョジョとエルサが踊っていたのは「ツイスト」ではないだろうか。

 

ツイストはアメリカ発祥のダンスである。

これも「音楽」と同じように敵国のものだ。

 

これを踊っていた母親は「戦争」や「ドイツか敵国か」といった規制にとらわれず自由であったし、

また、ラストシーンのジョジョとエルサも、敵国のダンスを踊れるくらい自由になった、ということだ。

 

 

 

◆ 考察:靴

この映画で、靴はジョジョの成長を描くモチーフとして、印象的に用いられる。

具体的に見てみよう。

 

 

10歳のジョジョはまだ靴紐をうまく結べない。そのためよくほどけてしまうし、その度に母親が結んでくれた。

この時の彼はまだ母親なしでは歩くことさえできなかったのだ。

母親はジョジョの靴紐を結び、ドアを開けて外の世界へとジョジョを誘う。

「外は怖い?」

「ええ、とてもね!」

 

一方の母親は、レースアップシューズを軽やかに踏み、ダンスする。

例の、ボルドーとホワイトのツートンが印象的な靴である。

ここでは足元しか映されないため、観客はこの靴のイメージを無意識に覚えてしまうだろう。それこそがこの足元のカットの目的だ。

 

その後、母親は反ナチ運動をしていたためにナチに処刑され、見せしめとして街中に吊り上げられる。

母親を見つけたジョジョが真っ先に見たものは、宙に浮いた例の靴だった。

そこで観客も「あ、あの靴だ。ということは母親は……」と察してしまう。

ジョジョはその脚に抱きつき、涙に濡れる。

 

ただ一人の家族だった母親を失ったジョジョは、エルサという新しいパートナーとともに生きていくことになる。

さまざまなことを乗り越えて成長したジョジョは、最後には自分で靴紐を結べるようになる。

さらにはエルサの靴紐も結んでやり、母親としたのと同じ会話を交わすのだ。

「外は怖い?」

「うん、とてもね!」

 

 

靴は全身のなかでも、とくに人となりが表れる場所だと思う。

 

映画だと、新海誠言の葉の庭』などが顕著ではないだろうか。

主人公の少年は靴職人見習いで、ふとした拍子に出会った国語教師の女性のために靴を作る。

その靴には、彼女が人生を歩みだせるように、という願いが込められていた。

言の葉の庭』以外にも、新海誠はくるぶしから下の描写が異様に上手いといわれる。

 

 

また、高級ブランド、ベルルッティの創業者であるアレッサンドロ・ベルルッティはこう言った。

「靴は人生を語る道具であり、文化そのものです」

 

 

 

 

◆ 総評

子ども視点から戦争を映した映画は少なからずあるが、『ジョジョ・ラビット』は徹底的にコメディとラブストーリーに終始しているという点で新鮮だった。

 

素直で根は優しく、時にいじらしい主人公のジョジョがかわいくて、愛おしくて仕方がない。

その親友であるヨーキーも、ジョジョに影響を与えたキーパーソンであった。

ジョジョユダヤ人であるエルサに惹かれていることに迷いを覚えるが、それを払拭したのがヨーキーだった。

「エルサのことは好きだ。でも僕はドイツ人で、彼女はユダヤ人なんだ」

「でも君のカノジョなんだろ?じゃあ関係ないよ」

 

友だちや恋愛に人種は関係ない。

ここは第二次世界大戦下のドイツなのに The Beatles が流れていたのは、そういうことを主張していたのだ。ジョジョたちがツイストを踊っていたのもそう。

 

 

そして戦争映画であるにもかかわらず、戦闘シーンはラストの1シーンのみだった。

他のシーンはほぼすべてジョジョ視点で、“ヒトラー”や母親、エルサとの対話をベースに進んでいく。

ジョジョは素直で明るい子どもなので、思わず噴き出してしまうようなシーンも多かった。

戦時下でも、人々はこんな風に楽しく過ごしていたのだろうか。

当時の人たちに想いを馳せると、愛おしくて切なくてたまらなくなる。

 

映画は、リルケの詩を映し出し幕を下ろす。

すべてを経験せよ 美も恐怖も

生き続けよ 絶望が最後ではない

 

街にはアメリカの戦車が闊歩している。この直後、ドイツは敗戦する。

一見、すべてが終わったように見えるかもしれない。

しかし、これからもジョジョの人生は続いていく。

彼は踏み出すのだ。靴紐をしっかりと結んだ靴で。

 

  

◆映画『ジョジョ・ラビット』:公式サイト

 

 

 

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